保険代理店向け交通事故セミナー~交通事故の基礎知識~
目次(前半部分)
・交通事故発生から示談までの流れ
・交通事故発生から示談までの流れの中の問題点
保険が対象とする事故とは?
保険は、人間の活動のほぼ全てに浸透しており、上記の「事故」全てに対応しています。ちなみに、自損事故やがけ崩れによる車両の損害は車両保険によって、人損は人身傷害保険によってカバーされます。
また、バイク対人の交通事故もカバーされますし、個人賠償保険によって、自転車対自転車や人対人の過失行為もカバーされます。なお、故意行為は保険ではカバーされません。
故意行為に保険の適用はない
・ 故意行為によって被害者に損害が発生した場合、加害者が損害賠償責任を負うことはもちろんだが、保険の適用はない。
保険約款・自賠責法14条
交通事故発生から解決まで
1.交通事故発生(警察・救急車、交通事故証明書)
交通事故発生
交通事故証明書(物損・人身)
・ 交通事故証明書は、賠償において必須
・ 診断書を取得して、警察に届け出ると人身事故
・ 人身事故になると、警察が実況見分を実施
・ 物損事故だと警察官の物件事故報告書
2.事故状況の把握(過失割合、実況見分)
過失の争い(事故態様)
・ まず、双方車両の損傷写真を確認。どちらの主張が正しいのか?
・ 損傷写真で区別がつかない場合には、実況見分調書を確認。
・ 最後の最後は、訴訟で尋問。
過失の争い(修正要素)
・ 一時停止義務違反
・ 速度超過
・ 合図を出しているか否か
・ 著しい過失・重過失の有無
実況見分調書の確認が重要。
それでも決着がつかない場合には、訴訟で尋問。
3.治療(治療費の一括払い、休業損害、病院、通院頻度)
治療の開始
一括払いのストップ
・ 一括払いは、保険会社の義務ではない。
・ 一括払いがストップすると、本来の病院との準委任契約どおり、被害者(患者)が病院に対して治療費を支払うことになる。なお、後で加害者に請求。
・ 保険会社からすれば、払いすぎ(長期の治療・濃厚治療等、過失相殺との関係)を避けたい。
・ 早めにストップしてしまうと、被害者(患者)は困窮
病院か接骨院か
・ 診断書は医師しか書けない。後遺障害診断書の重要性
・ MRI等の画像は、病院でしか撮影できない。
・ 接骨院の施術には、医師の同意・指示があったほうが良
い(施術の必要性・相当性)
・ 被害者(患者)にとっての有用性
休業損害のストップ
・ 休業損害は、交通事故による傷害によって働けなくなったことへの賠償。休業損害証明書
・ 治療中は働けない?治療中も働く?休業損害ストップとの関係は?
・ 早めに休業損害をストップされると、被害者は困窮
4.症状固定
交通事故賠償における症状固定の意義
・ 傷害と後遺障害を画する概念。治療費、休業損害、傷害慰謝料、逸失利益、後遺障害慰謝料
・ 交通事故における治療の終了。ただし、状態維持のための治療費(症状固定後の治療費)
・ 後遺障害等級認定手続への入り口。後遺障害の等級は症状固定時の状態を前提とする。
・ 症状固定の時期を決めることができないときには?
(参考図)傷害と後遺障害を画する「症状固定」概念
5.後遺障害等級認定手続(被害者請求・事前認定)
後遺障害認定手続(1)
・ 事前認定
・ 事前認定は、被害者にとって、資料収集の手間が省け
ることが多い。同意書の提出程度。
・ 任意保険会社が、どのような資料を提出したのかなかな
か見えない
・ 等級に対応する自賠責保険金を受け取れない。
後遺障害認定手続(2)
・ 被害者請求
・ 被害者請求は、被害者が資料を収集する。資料収集の負担
・ 被害者請求は、提出資料を確認できる。
・ 被害者請求は、等級がつけば、等級に対応する自賠責保険金を受け取れる。
後遺障害等級がついたら
・ 損害が確定
・ 示談交渉に入る
6.示談交渉 示談成立
(補論)自賠責保険と任意保険の関係
目次(後半部分)
・ 損害論(交通事故の被害者が請求する損害)
示談の内容。示談交渉は、どんな交渉なのか。
・ 弁護士はどのようなことをしてくれるのか
損害額の確定等に対する弁護士の考え方
・ 損害額の確定(交通事故と因果関係のある損害)
被害者に生じた損害の損害項目の整理(と証拠の獲得)
各損害項目における被害者の損害額の確定(と証拠の獲得)
被害者に生じた損害額の合計額の算出
・ 請求額の確定
被害者の過失割合の最小化
保険会社等からの既受領額の確認
その他問題となりうる事項の確認(素因減額等)
損害項目フローチャート
積極損害と消極損害
・ 積極損害とは
被害者が交通事故によって余儀なくされた支出のこと
(Ex.治療費、通院交通費、付添費用、装具代等)
→将来支出することが確実な費用も含まれる
・ 消極損害とは
交通事故がなければ将来被害者が得ていたであろう利益のこと
(Ex. 休業損害、逸失利益、死亡逸失利益)
治療費
・ 必要かつ相当な実費全額(1点単価、相当因果関係)
・ 鍼灸、マッサージ費用、器具薬品代(有効かつ相当なこ
と、医師の指示)
・ 差額ベッド代(特別室)
・ 症状固定後の治療費
・ 将来の手術費、治療費
付添費用
・ 入院付添費用(医師の指示、受傷の程度、被害者の年齢)職業付添人は実費全額、
近親者付添は日額6,500円(休業損害相当額)
近親者付添は日額6,500円(休業損害相当額)
※病院は、完全看護体制
・ 通院付添費用(受傷の程度、幼児等)日額3,300円
・ 症状固定までの自宅付添費(付添看護の必要の程度)
・ 将来介護費用(3級以下の場合、死亡後の将来介護費用はどうなる?)
職業付添人は実費全額、近親者付添は日額8,000円
職業付添人は実費全額、近親者付添は日額8,000円
入院雑費
・ 入院日額1,500円
任意保険の基準は、概ね日額1,100円~1,300円
・ 将来の雑費
通院交通費・宿泊費
・ 公共交通機関利用
・ タクシー利用の相当性
・ 付添者の通院交通費
・ 遠方の際の交通費・宿泊費
学生・生徒・幼児等の学習費、保育費、通学付添費
・ 進級遅れの授業料、補習費
・ 家庭教師代
・ 受傷によって無駄になった支払い済み授業料
・ 保育料
・ 通学付添費
装具・器具
・ 義歯、義眼、義手、義足(交換の必要性)
・ 眼鏡、コンタクトレンズ、車椅子
・ 盲導犬
・ コルセット、サポーター
家屋・自動車等改造費
・ 浴室・便所・出入口(2級以上の場合、3級以下の場合)
・ 自動車の改造費用(2級以上の場合、3級以下の場合)
・ 転居費用・仮住まい費用
葬儀関係費用
・ そもそも人はいつか亡くなる
・ 葬儀費用は原則150万円
・ 香典は損益相殺を行わない。香典返しも損害として認めない。
損害賠償請求関係費用
・ 診断書作成料等の文書料
・ 成年後見開始の審判手続費用
弁護士費用・遅延損害金
・ 判決の際には、弁護士費用は、損害額の1割
・ 判決の際には、遅延損害金は、交通事故発生から損害
額の5%。
・ 示談交渉の際には、弁護費用・遅延損害金は付加しな
いことが一般的
休業損害(1)
・ 給与所得者
事故前の収入(事故前年の源泉徴収票・課税証明書)を基礎として休業したことによる現実の収入減(有給休
暇、事故後の退職)
・ 事業所得者
事故前の収入(確定申告書)を基礎として休業したことによる現実の収入減(固定経費、過少申告、無申告)
休業損害(2)
・ 会社役員
会社役員の報酬のうち、労務対価部分と利益配当部分
とを分ける。
・ 家事従事者
賃金センサスに基づく休業損害(住民票)
・ 無職者(労働能力、労働意欲、就労の蓋然性)
・ 自賠責の基準は、日額5,700円
逸失利益
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失機関
税金の控除はない。
基礎収入
・ 基本は休業損害とパラレルに(事故前の現実収入)
・ 若年者(賃金センサス)
・ 年金の逸失利益性は?
労働能力喪失率(1)
・ 自動車損害賠償法施行令の別表第1及び第2に目安が記載されている。
労働能力喪失率(2)
・ 別表第1及び第2は、あくまで目安
・ 労働能力喪失率の逓減(だんだんと回復)
・ 歯、醜状痕、味覚で労働能力を喪失?
・ 漫画家が小指の障害を負ったら?板前が味覚を失ったら?
労働能力喪失率(3)
・ 死亡の場合には、生活費控除率
一家の支柱:被扶養者1人のときは40%
被扶養者2人以上のときは30%
女性:30%
男性:50%
年金部分の生活費控除率は、通常より高め。
・ 子どもが亡くなった場合の養育費相当額は?
労働能力喪失期間(1)
・ 始期は、原則、症状固定時。学生の場合は、高校卒業時または大学卒業時
・ 終期は、原則67歳まで。67歳までの期間よりも平均余命の半分の期間が長い場合には、平均余命の半分の期間
・ ライプニッツ係数で中間利息の控除
・ ムチウチの場合には、期間制限(14級は5年、12級は10年)
労働能力喪失期間(2)
・ ムチウチの場合の期間制限
慣れや代替動作の獲得
後遺障害の概念との矛盾
・ ムチウチ以外が原因の14級、12級
慰謝料(1)
・ 入通院慰謝料(実通院日数、通院期間に応じた慰謝
料)
・ 後遺障害慰謝料
慰謝料(2)
・ 入通院慰謝料
ムチウチの場合には、実通院日数×3と通院期間のい
ずれか短期間の方を赤本別表Ⅱに当てはめて算出。
ムチウチ以外にも、他覚症状のない場合に赤本別表Ⅱ
を使うことがある。
ムチウチ以外の場合には、実通院日数×3.5と通院期
間のいずれか短期間の方を赤本別表Ⅰに当てはめて
算出。
・ 任意保険の基準は、赤本の70%程度。
・ 自賠責保険は、実通院日数×2と通院期間のいずれか短期
間の方に日数に4,200円をかけた金額。
慰謝料(3)
・ 後遺障害慰謝料の相場
・ 任意保険の基準は、赤本70%程度
・ 自賠責保険金は、また別の基準がある。
慰謝料(4)
・ 死亡慰謝料の相場
※高齢者は、低額に認定される傾向にある。
慰謝料(5)
・ 近親者慰謝料
被害者死亡の場合
被害者が重度の後遺障害の場合
慰謝料(6)
・ 調整弁としての機能
逸失利益が認められない後遺障害の場合の調整
・ 慰謝料増額事由
物損(1)
・ 物損賠償の基本的な考え方
交通事故当時における物の価値(時価)を賠償する。
←時間とともに物の価値は次第に減少(減価償却)
・ 物損賠償の難しさ
交通事故当時におけるその物の価値の把握及び立証
→車両損害の場合にはレッドブックという本がある。
では衣服や時計、パソコンや貴金属等の場合は?
交通事故と物損との間の因果関係の立証
→本当にその交通事故によって生じた損害なのかどうかがにわかには判別できないケースも多々ある。
物損(2)
・ 物損(車両損害)の具体的内容
基本は、修理費
物理的全損
経済的全損とは?修理よりも経済的に得。
修理費<車両時価額+買替諸費用の場合⇒修理費
修理費>車両時価額+買替諸費用の場合⇒買替差額
評価損
登録手続関係費
代車使用料
その他(休車損、雑費等)
・ 物損に対する慰謝料?ペット?
請求額の確定(損害額=請求額?)
被害者に生じた損害額すべてをそのまま保険会社あるいは加害者に請求できないケースもある。
・ 損益相殺がある場合(既に保険会社等から一部でも損害の補填を受けている場合等)
・ 過失相殺がある場合(当該交通事故について被害者に
も落ち度(過失)がある場合)
・ 素因減額がある場合(被害者の損害拡大に、被害者の心因的要因や身体的要因が寄与している場合)等
損益相殺(1)(損害の填補?)
・ 自賠責保険金
・ 労災、労災の特別支給金
・ 人身傷害保険金
・ 自損事故保険金
・ 搭乗者障害保険金
・ 生命保険金
・ 傷害保険金
・ 健康保険の高額療養費、遺族年金、障害年金
損益相殺(2)(過失相殺との関係)
・ 健康保険、国民年金、厚生年金
・ 労災保険
・ 政府保障事業によるてん補金
素因減額・無償同乗
・ 心因的要因
・ 体質的・身体的素因(疾患、首が長い)
・ 無償同乗は、原則、減額しない
・ 危険を承知で同乗した場合(危険承知、危険関与・増幅等)
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弁護士に頼めばどんなことをやってくれるのか???
・ 保険会社との示談交渉(窓口、ガード)
・ 損害額の計算及び収集すべき証拠の提示等
・ 実況見分や診察(後遺障害診断書作成)の際の立会い。
・ 各種の資料収集等煩雑な手続の代行
(もっとも医療関係資料は、ご本人に協力をお願いする場合もある)
・ 交通事故紛争処理センターへの提出書類の作成等
・ 訴訟の提起及び追行
どんな時に弁護士に頼めばいいのか???
・ 保険会社との直接の交渉を回避したい時
→時間的制約・精神的負担の軽減
・ 保険会社提示の示談額に納得がいかない時
→賠償額算定基準が保険基準から裁判基準へ
財団法人交通事故紛争処理センターの利用
・ 交通事故との因果関係が問題となる損害がある場合
→訴訟提起が必要となる可能性が高い
・ 過失割合に問題が生じている場合
→実況見分調書の取得・交通事故状況の把握
交通事故の解決
(参考)裁判の流れ