“(記事①)
交通事故では、主に加害者と被害者が話し合いを持つことが少なくありません。また、保険会社や弁護士などの第三者を介する場合も少なくありません。そして、交通事故発生後から早期の段階で被害者と加害者が「示談」をすることがよくあります。その理由としては様々なことが考えられます。例えば、自動車損害賠償責任法(自賠法)に基づく保険金の請求のために必要となるので早期に示談をすることが考えられます。また、交通事故において、加害者は、自動車免許取消処分を受けるなどの行政処分を受ける以外にも、刑事罰を受けるおそれもあるので、示談書を警察や検察に提出することで起訴を免れることができるために早期に示談をすることが考えられます。また、加害者は起訴されたとしても、被告人の有利な事情の1つとして考慮されるかもしれないので早期に示談をすることが考えられます。さらに、被害者は治療費の支払いなど急を要する支出に対処するために早期に示談をすることが考えられます。
このように、交通事故では、加害者と被害者が早期に示談をすることが少なくないのです。そのため、示談後に、思いもよらぬ障害が生じた場合に被害者は何らかの請求が出来るのかが問題となるのです。
(記事②)
交通事故後、被害者は加害者と交渉(もしくは保険会社や弁護士などの第三者と交渉)し、示談を成立させたものの、後遺障害が生じた場合どうすればいいのでしょうか。
まずは、示談の性質を考えてみましょう。
一般に、示談の法的性質は、和解(民法695条、696条)とされています。和解とは、当事者が互いに譲歩をして、当事者間に存在している争いをやめる契約のことをいいます(民法695条参照)。民法上の和解といえるには、互いに譲歩をすることが求められているので、例えば当事者の一方のみが権利を放棄することを内容とする示談は民法上の和解ではありません。交通事故の場合、被害者と加害者が話し合いながら損害額を決めていくので、民法上の和解と考えることができます。以下、交通事故による示談の性質を民法上の和解と考えることにします。
和解は、当事者の互譲によって紛争を終結させる機能を持つ以上、和解成立後新たに紛争を蒸し返すことは許されません(和解の確定力)。もっとも、和解の確定力の及ぶ範囲は、当事者間に存在していた争いの部分について及ぶので、和解をするにあたり、当事者が紛争の前提として争わなかった部分にまで確定力は及ばないとされています。
(記事③)
示談の性質が和解であることを前提に、交通事故の後、被害者と加害者との間で示談をした後に後遺障害部分の損害を加害者に請求できるのでしょうか。通常、示談書には「被害者は、今後一切の損害を請求しない」などの条項(放棄条項)が存在することが多いです。示談書の条項に従えば、被害者は交通事故による後遺障害部分の損害を請求出来ないとも思えます。この点、判例は、全損害を正確に把握することが難しい状況下で早急に少額の賠償金の支払いで満足する旨の示談について、放棄条項の内容を、示談当時に予想していた損害について今後一切請求しないと解釈した上で、示談当時に予想できない不測の再手術や後遺症による損害について被害者は加害者に請求できるとしています(最判昭和43年3月15日参照)。
ただ、先の昭和43年判決の存在から、示談後の後遺障害の損害は必ず認められるわけではないということです。全損害を把握出来るような場合については、示談後の後遺障害の損害について認められないと思われます。また、示談の契約内容(特に放棄条項の内容)がどういうものかによっても後遺障害の損害が認められるかどうか変わってきます。例えば、放棄条項中に「ただし、被害者に一定の事情が生じた場合は別途損害を認める」との記載があれば、後遺障害の損害について認められる可能性が高くなります。いずれにせよ、後遺障害の損害を加害者側に支払ってもらうためには、示談書の解釈などを伴うため、まずは弁護士等の専門家に相談されるべきでしょう。”